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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)13665号 判決

原告

林茂

ほか一名

被告

エイアイユー インシユアランス カンパニー

ほか一名

主文

一  被告モントゴメリー・ロバート・Gは、原告らそれぞれに対し、各八七三万七四二六円及びこれに対する昭和五八年三月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告エイアイユー インシユアランス カンパニーは、原告らそれぞれに対し、各八六六万二一〇二円及びこれに対する昭和五八年六月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員並びに原告らの被告モントゴメリー・ロバート・Gに対する本判決が確定したときは、当該原告に対し、各七万五三二四円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、主文第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告モントゴメリー・ロバート・Gは、原告らそれぞれに対し、各二九九五万七四三二円及びこれに対する昭和五八年三月一三日から支払ずみまで月五分の割合による金員を支払え。

2  被告エイアイユー インシユアランス カンパニーは、原告らそれぞれに対し、各一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年六月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告エイアイユー インシユアランス カンパニーは、原告らの被告モントゴメリー・ロバート・Gに対する本判決が確定したときは、当該原告に対し、各五一八万八三一〇円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

4  訴訟費用は、被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年三月一二日午前零時一〇分ころ

(二) 場所 神奈川県横須賀市秋谷五五九六番地先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 自家用普通貨物自動車(横浜四四Y七七〇)

右運転者 被告モントゴメリー・ロバート・G(以下「被告モントゴメリー」という。)

(四) 加害車両 自動二輪車(品川も七四五五)

右運転者 亡林隆夫(以下「亡隆夫」という。)

(五) 事故態様 被告モントゴメリーは、葉山方面から三浦方面に向かつて左に曲線を描いて下り坂になつている本件事故現場を進行中、道路中央線を越えて右側ガードレールに衝突し、右ガードレールにはじき飛ばされて対向車線を閉塞し、折から右対向車線を三浦方面から走行してきた亡隆夫運転の被害車両に左側面を衝突させた(右事故を、以下「本件事故」という。)。

(六) 結果 亡隆夫は脳挫滅により即死し、被害車両、亡隆夫の着用していたヘルメツト、ブーツ及びジヤンパーが破損した。

2  責任原因

(一) 被告モントゴメリーは、加害車両を所有し、自己のためにこれを運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、亡隆夫の死亡により生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告モントゴメリーは、飲酒のうえ、指定最高速度の時速四〇キロメートルを超える時速六〇キロメートル以上の速度で走行して、ハンドル操作を誤り、センターラインをこえて反対側車線に飛び込んでガードレールに衝突して右反対車線を閉塞した過失によつて、本件事故を発生させたのであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、本件事故によつて亡隆夫及び原告らが被つたすべての損害を賠償する責任がある。

(三) 被告エイアイユー インシユアランス カンパニー(以下「被告会社」という。)は被告モントゴメリーとの間で、加害車両につき、昭和五七年五月一七日から同五八年六月一七日までを保険期間とする自動車損害賠償責任保険(以下「本件自賠責保険」という。)契約を締結しているから、自賠法第一六条第一項の規定に基づき亡隆夫の死亡による損害賠償額の支払義務を負うべきである。

(四) 訴訟費用会社は、被告モントゴメリーとの間で、加害車両につき、昭和五八年二月一六日から同年八月一六日までを保険期間とする自動車保険(対人賠償保険金額一〇〇〇万円、対物賠償保険金額一八〇万円、以下「本件任意保険」という。)契約を締結したものであり、被告モントゴメリーが無資力であるから、原告らの被告モントゴメリーに対する本判決が確定したときは、被告モントゴメリーの被告会社に対する本件任意保険に基づく保険金請求権の原告らの代位請求に対して、右保険金額の限度で本件事故による損害賠償額を支払う責任を負うべきである。

3  損害

(一) 亡隆夫の損害

(1) 逸失利益 三一四六万〇七七六円

亡隆夫は、死亡当時満三四歳であり、本件事故当時の年収は三二八万円であつたから、本件事故で死亡しなければ、三三年間稼働可能であり、その間右年収と同額の収入を得られたはずであるから、生活費として五〇パーセントを控除し、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡隆夫の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は三一四六万〇七七六円となる。

3,280,000×0.5×19.1834=31,460,776

(2) 被害車両破損等の物損 三六万四六二〇円

被害車両の修理代見積額は三三万三三七〇円であり、本件事故で破損したヘルメツト、ブーツ及びジヤンパーの時価合計額は三万一二五〇円であるから、右相当額の損害を被つたことになる。

(3) 相続

原告らは亡隆夫の両親であり、その死亡により同人の損害賠償請求権を法定相続分に従つて各二分の一の割合でそれぞれ相続取得した。

(二) 原告らの損害

(1) 葬儀関係費 合計一七〇万三三三八円

原告らは、亡隆夫の葬儀を行ない、これに一一二万七七三八円、葬儀の御布施と戒名代に三〇万円、葬儀場心付けとして五万三〇〇〇円を原告ら各二分の一宛支出し、更に四九日の法要を行ない、その御布施四万円及び法要費として一八万二六〇〇円を原告ら各二分の一宛支出した。

(2) 墓碑建立費等 合計九一万〇五〇〇円

原告らは、亡隆夫死亡のため、塔碑を建立し、その費用として五〇万円を、また仏壇を購入し、その費用として四一万五〇〇円を、各二分の一宛支出した。

(3) 雑費 合計三万五六三〇円

原告らは、本件事故により、交通費一万三六三〇円、調査費一万円を各二分の一宛支出したほか、いわゆる物損として被害車両の引取代及び見積代一万二〇〇〇円を各二分の一宛支出した。

(4) 慰藉料 合計二〇〇〇万円

亡隆夫は原告らの一人息子であり、訴外杉尾久美子と昭和五八年九月に結婚式を挙げる予定であつたもので、原告らの受けた精神的衝撃は測り知れない程甚大であるので、本件事故によつて原告らが受けた精神的苦痛に対する慰藉料として各一〇〇〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用 合計五四四万円

原告らは、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、相当額の報酬の支払を約したところ、右弁護士費用としては各二七二万円が相当である。

4  よつて、原告らは、被告モントゴメリーに対し、本件事故による損害賠償として、各二九九五万七四三二円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年三月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告会社に対し、本件事故による損害賠償として、各一〇〇〇万円及びこれに対する原告らが被告会社に対し請求した日の翌日である昭和五八年六月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに原告らの被告モントゴメリーに対する本判決が確定したときには物損及び本件自賠責保険によつて支払われる金額を超過する各五一八万八三一〇円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)は認める。

2  同1の(五)のうち、被告モントゴメリーが本件事故現場を進行中、右側ガードレールに衝突したこと及び被害車両が加害車両に衝突したことは認め、その余は否認する。

3  同1の(六)のうち、本件事故により被害車両が破損し、亡隆夫が脳挫滅により死亡したことは認め、その余は不知。

4  同2の(一)のうち、被告モントゴメリーが加害車両を所有していたことは認め、その余は争う。

5  同2(二)は否認ないし争う。

6  同2の(三)及び(四)のうち、被告会社が被告モントゴメリーとの間で、加害車両につき、原告ら主張のとおりの本件自賠責保険契約及び本件任意保険契約を締結したこと及び被告モントゴメリーが無資力であることは認め、その余は争う。

7  同3のうち、(一)(1)の亡隆夫の年齢及び(一)(3)(相続)の事実は認め、その余は不知。

8  同4は争う。

三  抗弁及び被告らの反論

1  本件事故は、被告モントゴメリーが本件事故現場の道路を進行し、左カーブを出たところで、被害車両が中央線を突破して猛スピードでかつ自車線に戻ろうとしないで進行してくるのを発見し、これとの衝突を回避するため制動措置をとるとともに進行方向左側が山側で回避不能なため右に転把して右側ガードレールに衝突させて停止したところに被害車両が加害車両後部に衝突したものであるから、被告モントゴメリーには何ら過失がなく、本件事故は専ら亡隆夫のセンターラインオーバーと指定最高速度を大幅に上まわるスピード違反の過失によつて発生したものである。

2  加害車両には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。

3  よつて、被告モントゴメリーは自賠法第三条但書の規定により免責され、また、仮に被告モントゴメリーに過失があるとしても原告の前記過失が大であるので大幅な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁及び被告の反論に対する認否及び原告の反論

1  抗弁及び被告の反論の1の事実は否認ないし争う。

2  同2の事実は否認する。本件事故当時、加害車両のタイヤは四論とも著しく摩耗しており、右のような構造上の欠陥と機能の障害のあるタイヤで走行していたため、本件事故が起こつたものである。

3  同3は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の具体的態様について判断する。

1  被告モントゴメリーが本件事故現場を加害車両で進行中、右側ガードレールに衝突したこと及び被害車両が右加害車両に衝突したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない乙第二、第三号証、原告林博子(以下「原告博子」という。)本人尋問の結果により昭和五八年三月二八日当時の本件事故現場の写真であると認められる甲第一七号証及び証人米沢正三、同飯河晋の各証言を総合すれば、

(一)  本件事故現場の道路(以下「本件道路」という。)は、(葉山方面から武山方面に通じる国道一三四号線で最高速度が四〇キロメートル毎時に指定され、葉山方面から進行してくると左は山側で、右は海側になつており、葉山方面から進行してくると本件事故現場の約四〇キロメートル手前の地点まで左カーブ(以下「本件カーブ」という。)になつていて、そのカーブが終了するとほぼ直線で約二パーセントの下り勾配になつていること。本件道路は、中央線によつて二車線に区分された道路で片側車線の幅員はそれぞれほぼ三・八メートルであり、黄色の中央線により追い越しのためのはみ出し通行禁止の規制がなされていること、本件道路の海側には連続してガードレールの設置があるのに対し、山側には本件カーブの終了地点付近から本件事故現場までガードレール等はなく、山側に入る小道があること、

(二)  加害車両は本件事故直後海側車線上に海側に前部を向けて道路に対してほぼ直角に停車していたこと、右加害車両は車長四・〇五メートル、車高一・三九メートルで運転席が前部右側にあるところ、前部バンパー中央付近は凹損し、ボンネツト及びフエンダーが曲損大破し、ラジエターグリルがとれてラジエターが曲損しており、また左後部は後部より約〇・八メートルの間の後輪の上辺部周辺が深さ〇・三メートルにわたつて凹損し、後方屋根部分にも凹損があり、左後輪はパンクして後部ガラスが破損していること、

(三)  亡隆夫は葉山方面に頭を向けて海側ガードレールから〇・三メートル程離れたところに倒れていたこと、加害車両の屋根中央部には根元からとれた人歯一本が落ちていたこと、被害車両は山側の武山方面寄りに前部を向けて海側の車線のセンターライン寄りに右向きに横転し、その前輪はパンクし、前輪リーム、フロントフオーク及びハンドルが曲損し、前照灯、速度メーター、エンジン回転計及び右後部ウインカー等が破損しており、速度メーターは五五キロを指示して停止し、エンジン回転計は三三〇〇を指示して停止していたこと、そのハンドル右側の前照灯のスイツチはONとなつており、ハンドル左側の方向指示器スイツチはL(左)になつていたこと、

(四)  本件事故現場のガードレールの支柱一本は海側に根元より曲損し、同支柱の左右ガードレールも四メートルにわたつて曲損し、本件事故現場の路面には、センターライン付近から右ガードレールの曲損部分付近にかけて葉山方面山側から武山方面海側に斜めに向かう右六・五メートル、左六・〇メートルの長さの加害車両によつて印象された二条のスリツプ痕が残されていること、

(五)  被告モントゴメリーは、本件事故当時、飲酒のうえ加害車両を運転し、指定最高速度を少なくとも時速一〇キロメートル超過する時速五〇キロメートル以上の速度で走行しており、また、加害車両のタイヤは四輪とも相当に摩耗していたこと、同被告は本件事故による負傷はなかつたこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右事実に、前掲乙第二、第三号証及び証人岩本英毅の証言と弁論の全趣旨を総合すると、被告モントゴメリーは、本件道路を葉山方面から武山方面に向かつて少なくとも時速五〇キロメートルの速度で走行し、葉山方面から進行してくると本件事故現場の約四〇メートル手前の地点まで左カーブになつている本件カーブを曲がり終えて、武山方面の本件道路の見通しがよくなつたところで、加害車両の走行車線側を前方から前照灯をつけて指定最高速度を超える時速五五キロメートル以上の速度で進行してくる被害車両を約一三〇メートル前方に発見し、そのまま約二〇メートル程進行したが、被害車両がそのまま進行してくるため、ブレーキをかけて左にハンドルを切つたところ、車の後部が石に振れたので慌ててハンドルを右に切り、そのまま反対車線側に中央線を突破して進入し、右側ガードレールに右前部を衝突させ、更に車体後部が左に振られて対向車線を閉塞する形となつたところに、自車線に戻つていた被害車両が進行してきて、加害車両左後部と衝突したものと推認することができる。

これに対し、原告らは、本件事故は加害車両が事故現場手前にある本件カーブを曲がり切れずに対向車線に飛び出し、対向車線側にあるガードレールに衝突した結果発生したものである旨主張し、池田和浩作成の供述書である甲第一七号証、飯河晋作成の供述書である同第一八号証及び証人飯河晋の証言中には、右主張に沿う記載ないし供述部分がある。しかしながら、右池田及び飯河の両名は、加害車両が本件カーブを曲がり終える前の走行状況を目撃しているのみで、事故状況を直後に目撃している者ではなく、その事故状況に関する供述等はいずれも右目撃した走行状況からの推測にとどまるのみならず、仮に、本件事故が原告ら主張の態様で発生したものとすると、加害車両は、本件カーブの終了地点に比較的近い位置で対向車線にはみ出してガードレールに衝突するものと考えられるのに対し、前示のとおり、本件カーブの終了地点とガードレールの曲損部分との間には約四〇メートルもの間隔があるうえ、前示の加害車両によつて印象されたスリツプ痕の位置及び方向からみると、加害車両はガードレール及び被害車両との衝突地点の直前の位置から対向車線にはみ出したものと解されること等の事情に照らすと、右池田及び飯河の供述等はたやすく採用することはできないものといわざるをえない。また、小菅八栄子作成の書面及び図面である甲第二二、第二三号証の記載も前記認定ないし推認を覆えすに足るものとはいい難く、他に前示の事故態様に関する認定ないし推認を左右するに足りる証拠はない。

三  次いで、被告らの責任について判断する。

1  請求原因2(責任原因)のうち、被告モントゴメリーが加害車両を所有していたことは当事者間に争いがない。したがつて、他に特段の事情の認められない本件においては、同被告が加害車両を自己のために運行の用に供していたものと認めるのが相当である。

2  また、被告会社が被告モントゴメリーとの間で、加害車両につき、原告ら主張のとおりの本件自賠責保険契約及び本件任意保険契約を締結していること及び被告モントゴメリーが無資力であることは当事者間に争いがない。

3  そこで、被告モントゴメリーの過失の存否ないし被告らの免責の抗弁について判断する。

前記二に認定ないし推認した事実によれば、被告モントゴメリーには、飲酒のうえ、指定最高速度を少なくとも時速一〇キロメートル超える時速五〇キロメートル以上の速度で走行し、反対方向から対向車線にはみ出して進行してきた被害車両との衝突を回避しようとする際、ハンドル操作を誤り、加害車両を反対車線に飛び出させて右側ガードレールに衝突させ同車線を閉塞した過失があり、本件事故は、同被告の右過失によつて発生したものというべきである。

なお、被告らは、被告モントゴメリーは加害車両の運行方向左側が山側で回避不能であつたため右に転把したものである旨主張するが、同被告の進行方向左側が山側であることは前示のとおりであるものの、同被告が左側が回避不能であるため右に転把したものと認めるに足りる証拠はないから、原告らの右主張は採用することができない。

右のとおり、被告モントゴメリーに過失がなかつたとは認められないから、被告らの免責の抗弁は理由がない。

4  右によれば、被告モントゴメリーには、自賠法第三条及び民法第七〇九条の規定に基づく損害賠償責任があり、また、被告会社には、自賠法第一六条第一項の規定及び本件任意保険契約に基づく責任があることが明らかである。

四  ここで、過失相殺の主張について判断する。

前記二に認定ないし推認した事実によれば、亡隆夫には、被害車両を運転して本件道路を武山方面から葉山方面に走行中、本件事故現場付近において自車の走行車線ではなく、反対車線を指定最高速度をこえる少なくとも時速五五キロメートルの速度で走行し、被告モントゴメリーの運転する加害車両が反対方向から走行してきたにもかかわらず、自車線に直ちに戻らなかつた過失があり、本件事故は、亡隆夫の右過失によつて発生したものであるといわざるをえない。

右の亡隆夫の過失と前示の被告モントゴメリーの過失とを対比すると、亡隆夫には、本件事故の発生につき、六割の過失があるものと認めるのが相当である。

五  進んで、損害について判断する。

1  逸失利益 二五七八万六八八四円

亡隆夫が死亡当時満三四歳であつたことは当事者間に争いがなく、原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一三ないし第一五号証によれば、本件事故当時、亡隆夫は、有限会社ゼネラルスタツフに勤務して劇団四季の舞台装置関係の仕事に従事し、年額三二二万二八五七円(一円未満切捨)の収入を得ていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。右の事実と弁論の全趣旨によれば、亡隆夫は、本件事故で死亡しなければ満六七歳までの三三年間稼働可能であり、その間右年収を下らない金額の収入を得られたはずであるから、生活費として五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡隆夫の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二五七八万六八八四円(一円未満切捨)となる。

3,222,857×0.5×16.0025=25,786,884

2  被害車両破損等の物損 三六万四六二〇円

本件事故により被害車両が破損したことは当事者間に争いがなく、原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇、第一一号証によれば、被害車両は右破損のため廃車にされたが、その修理見積額は三三万三三七〇円であつたこと、本件事故により亡隆夫の着用していたヘルメツト、ブーツ及びジヤンパーが破損したところ、右ヘルメツト、ブーツ及びジヤンパーは合計三万一二五〇円以上で購入されたものであることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。右の事実によれば、亡隆夫は、本件事故による被害車両破損等の物損として合計三六万四六二〇円の損害を被つたものと認められる。

3  相続

原告らが亡隆夫の両親であり、同人の死亡によりその損害賠償請本権を決定相続分に従つて各二分の一の割合でそれぞれ相続取得したことは当事者間に争いがない。

4  葬儀関係費 合計八〇万円

原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし一四、第七号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によれば、原告らは亡隆夫の葬儀を行ない、右諸経費として一一二万七七三八円を、葬式の際のお布施と戒名代として三〇万円及び葬儀場への心付けとして五万三〇〇〇円を各二分の一宛支払つたこと及び原告らは亡隆夫の四九日の法要を行ない、その諸経費として二二万二六〇〇円を各二分の一宛支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、本件において認められる諸事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある右葬儀関係費としては合計八〇万円(原告ら各四〇万円)をもつて相当と認める。

5  墓碑建立費等 合計二〇万円

原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第八号証の一、二及び第九号証によれば、原告らは亡隆夫のため墓碑を建立し、その費用として五〇万円を、また仏壇を購入し、その費用として四一万五〇〇〇円を各二分の一宛支出したことが認められるが、本件において認められる諸事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある右墓碑建立等の費用としては二〇万円(原告ら各一〇万円)をもつて相当と認める。

6  雑費 合計三万五六三〇円

原告博子本人尋問の結果、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし三、第五号証、第一二号証及び成立に争いのない甲第二号証によれば、原告らは、本件事故直後、事故現場にタクシーで高速道路を利用して赴いた際にタクシー代一万三一八〇円及び高速道路の通行料として四五〇円の合計一万三六三〇円を、医師伊藤順通に亡隆夫の死体検案書作成の礼として一万円を各二分の一の割合で支出したほか、いわゆる物損として被害車両の引取代及び見積代一万二〇〇〇円を各二分の一の割合で支出してこれに相当する損害を被つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

7  慰藉料 合計一三〇〇万円

成立に争いのない甲第三号証、原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第二一号証によれば、亡隆夫は原告らの一人息子であつて、訴外杉尾久美子と昭和五八年九月に結婚する予定であつたことが認められるほか、本件において認められるその他諸般の事情を考慮すると、亡隆夫の死亡による原告らの慰藉料としては、各六五〇万円をもつて相当と認める。

8  過失相殺

以上認定の原告らの損害額は人損分各一九九〇万五二五七円、物損分各一八万八三一〇円となるところ、前示のとおり、亡隆夫には本件事故の発生について六割の過失があるから、前記損害額から過失相殺として六割を控除すると、損害残額は人損分各七九六万二一〇二円(一円未満切捨)、物損分各七万五三二四円となる。

9  弁護士費用 合計一四〇万円

原告博子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らから損害額の任意の支払を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、その報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、認容額、訴訟の経緯その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告らにつき各七〇万円をもつて相当と認める。

六  結論

以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、被告モントゴメリーに対し各八七三万七四二六円及びこれに対する本件事故発生日の翌日である昭和五八年三月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告会社に対し各八六六万二一〇二円及びこれに対する本件事故発生の日ののちの日である昭和五八年六月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに原告らの被告モントゴメリーに対する本判決の確定を条件として各七万五三二四円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法条八九条、第九二条本文、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤 小林和明 比佐和枝)

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